スタンフォード式最高の睡眠|読書メモ

スタンフォード式最高の睡眠(著:西野精治)2017年

人生3分の1は布団の中と言うように、実に多くの時間を睡眠に費やしています。
睡眠が大事なのはわかるのですが、忙しくなるとついつい睡眠時間を削りがちなので、睡眠の質を高めて限られた時間で効果的な睡眠をするヒントを探そうと読みました。

睡眠負債で日本人が危ない

睡眠負債というキーワードが出てきますが、これは慢性的かつ無意識の睡眠不足のこと。あからさまに眠いという自覚がなくてもいつの間にか貯まっている睡眠不足の借金のような概念です。この睡眠負債が活動中の→パフォーマンスに大きく影響するとのこと。フランス、アメリカ、日本の平均睡眠時間の統計が紹介されており、日本は他と比較して睡眠時間が短く、さらに東京は日本の平均よりもさらに1時間近く短いというデータが出ています。

<各国の平均睡眠時間>
フランス:8.7時間
アメリカ:7.5時間
日本      :6.5時間
東京      :5.6時間

アメリカでは睡眠時間が6時間未満は短時間睡眠と定義されるそうですが、日本では40%が睡眠6時間未満で短時間睡眠大国だそうで、2016年に行われたミシガン大学の調査では調査対象の100国中で日本が睡眠時間最下位だったとのこと。周囲も同じくらいの睡眠時間なのであまり自覚はありませんでしたが、日本人は知らず知らずのうちに睡眠負債が貯まっているようです。

では、睡眠負債を解消するにはどうすればいいかというと、もうこれ以上寝れなくなるまでひたすら寝ることを3週間程度継続すると睡眠負債が解消されるそうです。最初は1日に12時間以上寝ていたものが、だんだんと睡眠時間が短くなり3週間近くなった頃に睡眠時間の低下が滞ってきて睡眠時間が安定してきた頃が睡眠負債解消のサインで、さらにその睡眠時間がその人にとっての適正な睡眠時間だそうです。3週間も時間の限り寝るというのは普通の人には不可能なので、睡眠負債の解消は現実的には無理ということです。実に残念です。

短時間睡眠がもたらすリスク

睡眠負債の解消は現実的に不可能ということがわかりましたが、放置すると当然弊害があります。短時間睡眠のリスクについても紹介されています。

動物の中には、南極のエンペラーペンギンのオスのように卵が孵化するまでの1~2ヶ月はじっと卵を守ったまま、寝ない・食べない・動かないを貫き通すという種も存在しており、期間限定ではあるが不眠問題のない動物もいるそうです。しかし、人間はそうはできていないので毎日の睡眠が基本ですが、人間がエンペラーペンギンのように不眠を続けたらどうなるか紹介されています。不眠のギネス記録は11日とのことで、不眠時間の経過とともに、段々とろれつがまわらなくなり、イライラが募り、言い間違えが増え、さらには幻聴、被害妄想のような症状も見られたそうです。これは完全に脳の機能の低下に他なりません。脳にダメージがあるという点は非常に怖いです。

睡眠不足が続くと次のようなリスクがあります。
・インスリンの分泌が悪くなり血糖値が高くなり糖尿病に
・食べ過ぎ抑制のレプチンの分泌が悪くなり太る
・食欲増進のグレリンが分泌されて太る
・交感神経の緊張状態が続き高血圧になる
・精神が不安定になりうつ、アルコール依存、薬物依存になる

たしかに、夜更かししているとお腹が空いて何か食べたくなった経験はありますが、これは空腹なのではなく睡魔によりホルモンが分泌されているということだったんですね。睡眠不足の人は寿命が短くなる(6年後死亡率が1.3倍になる)という研究結果があるそうですが、寝過ぎもまた寿命を縮めるそうです。また、睡眠不足により認知症リスクは高くなりますが、1時間以上の昼寝を続ける生活習慣も認知症リスクを高めるという研究報告もあり適正な睡眠時間を取らないと寝すぎても寝不足でもダメなようです。

睡眠の5つの役割

睡眠不足が健康に悪いことはわかりましたが、そもそもなぜ睡眠を取らなければいけないのか、睡眠の役割は何かについても紹介されていました。睡眠には主に5つの役割があります。

①脳と体の休息
そりゃそうだろ・・とツッコミたくなるところですが、もう少しブレイクダウンすると交換神経系の働きを休ませる目的があります。そもそも自律神経には交感神経、副交感神経と2つが存在しており、意志とは関係なく常に活動しており、体温調節、心臓の鼓動、呼吸、消化、代謝、ホルモン調整など様々な役割を果たしています。
交感神経と副交感神経はどちらかの活動が30%ほど優位に働きます。交感神経は血圧、血糖値、脈拍をあげ、体を活動モードにする役割です。脳は緊張感と集中力を増し、筋肉、心臓は活発になります。一方で副交換神経は食後に優位となり心臓と呼吸がゆるやかになり胃腸の動きが活発化します。またノンレム睡眠時にも副交感神経が優位となります。

②記憶の整理・定着
レム睡眠時にエピソード記憶を定着させます。具体的には海馬から大脳新皮質に記憶が移され定着します。また記憶の整理は記憶を残すだけではなく、嫌な記憶の削除も行います。これは最初の90分の深いノンレム睡眠で行われます。また、入眠初期や明け方の浅いノンレム睡眠で手続き記憶(体で覚える記憶)が定着します。

新生児は9割がレム睡眠で、徐々にノンレム睡眠の割合が増え、13歳程度で大人と同程度の割合になるそうです。感覚的には新生児はエピソード記憶よりもまずは手続き記憶の段階というイメージですが、そうではないようで徐々にノンレム睡眠の割合が増えていくそうです。ハイハイや歩行の仕方を記憶するのもある程度ノンレム睡眠の割合が増えてきてから出ないと体の動かし方の記憶ができないということなんですね。

③ホルモンバランスの調整
睡眠中は様々なホルモンが分泌されますが、代表的なのは成長ホルモンです。成長ホルモンは筋肉や骨を作り代謝を正常化します。また、生殖や母性本能に関連するプロラクチンも最初のノンレム睡眠で多く分泌されるホルモンです。睡眠不足が続くと肌荒れに直結しますが、肌の保水量は成長ホルモンとプロラクチンと関係があり睡眠量と肌の保水量には相関があります。

④免疫力を高める
ホルモンバランスの調整と関連のある話ですが、免疫力はホルモンバランスに依存します。睡眠不足によるホルモンバランスの崩れ(分泌されるべきホルモンの不足など)は免疫低下に直結します。私は口内炎ができやすい体質で困らせられているのですが、体調のバロメーターとして活躍している点もあり、ホルモンバランスの乱れが肌の乱れに繋がり口内炎の発症として現れているということです。

⑤脳の老廃物の除去
脳は脳脊髄液に浸っておりその量は約150CCで、脳脊髄液は1日に600CC生産され4回ほど交換されています。脳の老廃物は脳の神経細胞の活動が活発なときに多く排出され、脳の老廃物の除去は寝ているときに特に活発に行われます。脳の老廃物の1つであるアミロイドβはアルツハイマーを引き起こすことがわかっており、脳の老廃物の除去も脳の健康を保つ上で必要な活動です。

質の高い最高の睡眠をとる方法

睡眠のサイクルは個人差があるものの90~120分でノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返し、一晩で3~4サイクルして目覚めます。しかし、睡眠の質を決めるのは最初の90分が全てだとこの本では提唱しています。この最初の90分をいかに眠るかで最高の睡眠が手に入るかどうかが決めるというのがまさにこの本の主題です。

最初の90分でより深いノンレム睡眠にたどり着くことが睡眠の質を決めますが、逆に最初の90分の睡眠の質が悪いとその後の睡眠も総崩れとなりリカバリーができません。成長ホルモンの分泌も80%が最初の90分と言われています。

最初の90分が大切ということは、いかにスムーズに寝付くかという点が重要で寝付きが良くならないといけませんが、大抵の人は10分以内に入眠すると言われており、寝付き悪いと言う人でもだいたい10分程度で寝付く人がほとのというデータがあるそうです。
睡眠の大まかなサイクルは、まずは心拍数が低下し副交感神経が優位になり入眠し、最初の90分で一番深いノンレム睡眠に突入し、その後レム睡眠の段階に入り筋肉の収縮が始まります。この時体がピクピク動くような反応が見られます。金縛りは入眠後すぐにレム睡眠が訪れた時に起こる現象です。

眠りのスタートダッシュを決め、最初の90分の睡眠の質を高めるためには、眠り始めの段階でスムーズに副交感神経を優位にすることがポイントです。そのためのポイントは人間の深部体温と皮膚体温の差を小さくすること。活動時のヒトは深部体温は36℃程度であるのに対して、皮膚体温は33℃程度です。しかし、睡眠時は活動が弱くなるので深部体温が低下し皮膚体温との差が小さくなります。この状態を意図的に作ることで、体を睡眠モードに入れてやりスムーズに入眠するというメソッドが紹介されています。快適入眠メソッドは次の3つ。

1、就寝90分前に40度のお風呂に15分程度入る
お風呂に入ることで、深部体温は0.5度程度上昇する。深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質があるので、お風呂に入って深部体温を上げると、その反動で深部体温が急降下し元の深部体温よりも下がる。上がった深部体温が元に戻るまでの所要時間は90分のため、90分以降は入浴前よりも深部体温が下がっていき、皮膚温度との差が小さい状態が生まれる。

2、寝る前に脳に刺激を与えない
よく言われるのが就寝前のスマホのブルーライトですが、ブルーライト以外にも単純にスマホでネットサーフィンやゲームで頭が覚醒してしまうと交感神経を刺激してしまい副交感神経への切り替えがうまくいきません。

3、就寝時間を固定する
同じ時間に眠りできれば同じ時間に起きることで、脳が睡眠モードに入りやすくなります。朝は起きたら太陽の光を浴びて体内時計を整え、逆に夜はできるだけ波長の短い光を浴びないようにします。太陽の強い光は、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑えてくれるので覚醒状態に入ります。逆に夜に強い光を浴びてしまうと、メラトニンの分泌を抑えるため、眠りづらくなってしまいます。

上記のメソッドで「最高の睡眠」というのはかなり大袈裟な気もしますし、よく知られた快眠メソッドと変わらず目新しい方法はありませんんでしたが、睡眠研究の結果わかったことがエビデンスとともに多数紹介されている点で面白い本でした。