アルツハイマーの予防

もう数十年前ですが、私の親戚がアルツハイマーを発症し、その姿を見るにつれて自分はアルツハイマーになりたくないと強く思うようになりました。同じように多くの人は自分がアルツハイマーを発症することに対して少なからず恐怖があると思います。
アルツハイマーの研究は世界各国で行われていて、予防法や症状を緩和する(進行を遅らせる)方法も本やテレビで紹介されています。アルツハイマーの研究はまだ途上段階で、確定的なことは誰もわかりませんが、大学時代に脳の研究をしていた私の感覚で「これは強く納得」という内容を紹介したいと思います。

アルツハイマーの仕組み

「脳細胞」と一言で言われても、脳細胞には大きく分けてニューロン(神経細胞)とグリアの2種類に大別されます。いわゆる人間の脳機能(認知、記憶など)を担っているのはニューロンで、グリアは認知や記憶などの機能に直接的に関与していません。しかし、グリア細胞はニューロンの50倍存在すると言われ、昔はグリア細胞が脳機能において何を担っているのかわからず、しかし、これだけ数が多いのだから何か重要な役割を果たしているはず、と考えられていました。

ニューロンは細胞同士が結びつき神経回路網を形成します。この神経回路網を電気信号が行き交うことで脳の機能が発揮されますが、ニューロンとニューロンの間の伝達は電気信号ではなく、神経伝達物質と呼ばれる化学物質(ドーパミンやセロトニン)で伝達が行われます。この神経伝達物質がやりとりされるニューロンとニューロンの接合部のことをシナプスと呼び、ニューロンが活動して神経伝達物質がやり取りされると、アミロイドβと呼ばれる老廃物も発生します。感覚的には、運動すると乳酸がたまるようなものでしょうか。

アミロイドβは老廃物なので除去することがニューロンにとっては好ましく、グリア細胞がアミロイドβのお掃除をする役割を担っています。特に睡眠中にはグリア細胞の中のミクログリアが活動的になり、脳の脳脊髄液脳髄液を循環させることでアミロイドβを除去すると言われています。

しかし、何らかの理由でアミロイドβが大量に放出されたり、アミロイドβのお掃除がうまくいかず、アミロイドβが右肩上がりに増加していくと、アミロイドβの塊であるアミロイドプラークが形成され始めます。このアミロイドプラークの量がどんどん増加して、ある臨界点に達するとお掃除役のグリア細胞が暴走を始めてニューロンを壊し始める・・これがアルツハイマーの原因と言われています。グリア細胞にも「もうやってられるか!」という感覚があるということでしょうか。

アルツハイマーの予防

睡眠中にアミロイドβが集中的に除去されると聞くと、睡眠不足はアルツハイマー発症を加速させてしまうというのはわかりますが、一方でたくさん寝れば寝るほどいいというわけでもないようです。毎日2時間以上の昼寝をする習慣がある人は、そうでない人よりもアルツハイマーの発症率が高いというデータがあるそうです。なんとも対策が難しいですね。

ほかに予防法としてよく耳にするのが、バランスの良い食生活、有酸素運動、人との交流、新しいことへのチャレンジなどです。このうち新しいことへのチャレンジというのはとても効果的ではないかと個人的には感じます。
脳の神経回路網を顕微鏡で見ると交通網のような感じです。「ニューロン 免疫染色」で画像検索すると様々な写真が出てきます。


参照:http://www.lonzabio.jp/catalog/1749/

写真のように脳の神経回路網は複雑に形成されていて、交通網のようにあるニューロンからあるニューロンまでの通路が複数あるように見えます。例えば、ボールペンを差し出されて、「これは書くためのもの」と認知する場合、ボールペン→書くものと繋がるルートは1つではないと思います。つまり、問に対する答えを導く神経回路のルートをたくさん作っておくというのがアルツハイマーの発症の予防にいいのではないかと思います。
道路でも、東京から大阪に行くルートが国道1号線しかなければ、そのルートが封鎖されたら行く術がなくなりますが、ほかに東名高速、新東名高速、中央道、新幹線と別の選択肢があれば大阪に辿り着くことができます。そんな単純ではないかもしれませんが、神経回路網もミクロの世界で物理的には同じ仕組みなのではないかと思っています。

脳トレの類もそれまで経験したことのないパズルとかをやる分には新しい神経回路網が作られて効果があると思いますが、同じパズルを延々とやり続けても特定の神経回路網が強化される(学習)だけで、新たな回路ができるわけではないので、アルツハイマーの予防にはあまり効果がないのではないかと思います。
新しいことにトライして、ある程度習熟したらまた新たなことにトライする・・この継続がアルツハイマー予防に効果的ではないかと思います。