人材育成PDCA

  
サラリーマンとして組織で生きていく人は、遅かれ早かれ人を育てる仕事、組織を育てる仕事に行き着くはずだ。
人事や教育関連の仕事以外のサラリーマンも出世するにつれいずれ必要となるスキルが人材育成能力である。

人材育成は相手が人である点が難しく、セオリーはあるものの標準化が難しい。
そのため人材育成で重要なことは、あれこれ考えてきれいにやろいうとするのではなくとにかくPDCAをまわしていくことである。
そこで、人材育成PDCAを効果的にまわすアイディアをご紹介。

教え方が悪くないかチェック

部下がなかなか育たない時は教え方に悪い可能性がある(本人に問題ありの場合もあるが)のは言うまでもないが、「教え方が悪い」とはなんとも漠然としてる。
「教え方が悪くないか」を考えることは曖昧としていて難しいが、具体的に以下の観点をチェックしてみると効果的である。

①スピード
教えるスピードが早すぎ、遅すぎないか。早すぎで部下がキャパシティオーバーでついてこれていない事態に陥っていないか確認する。
また、スピードが遅すぎるという場合も注意が必要。適度にストレッチさせる程度の負荷を与えることが成長には効果的だが、部下の能力に対してスピードが遅すぎるとそれはそれで退屈を招き集中力を欠くため期待したような成長が見られない場合がある。

②実例が悪い
部下に与えているタスク(OJT、OffJTいずれも)の筋が悪くないか確認しよう。
任せている案件の内容や難易度が部下のスキルや育ってたい方向性とマッチしていない場合、部下は部下なりに成長していても、期待したような成長とならない場合がある。

③回数不足
何ごとも反復練習で身についていく。
車の運転と同じで、最初は意識してもできなかったことが、徐々に意識しなくてもできるようになる。しかし、そのためには回数をこなすことが必要である。
部下の成長が期待通りでない場合、教え方に問題はなくても回数がまだ不足しているという場合がある。自分や周囲の経験、部下のスキルを勘案して回数不足でないか検討し、もし回数不足と思われる場合は、やり方は変えずにもう少し回数をこなす機会を与えると良い。
特に、ラーニングカーブは人それぞれなので、部下の特徴を把握することが重要である。

④説明がわかりにくい
そもそもの話だが、説明がわかりにくくて実は部下の頭の中に「?」が浮かんでいないかを確認する。
部下からみると上司は「できる人」なので当然教え方も上手と思っており、理解できないのは自分の理解力が不足しているせいと思いがちで「わかりにくい」とはなかなか言えない。
そこで、説明がわかりにくくないか、ちゃんと理解できているかを言葉で確認することが重要である。
思考の癖は人それぞれなので、伝わらない=頭が悪いとも一概に言えない。認識の齟齬をなくすには極力曖昧な表現を避けて具体的に伝えることが重要である。
また、説明の表現方法として言葉ではなく図を使うとかある程度の工夫はもちろん試してみるべきだが、誰しも説明のプロではないので説明の部分だけ得意な人に切り出すことも対策として有効である。

適切なジョブアサイン

仕事を「緊急度×重要度」の四象限のマトリクスで整理することはよく知られているが、部下のジョブアサインにもこの考え方は有効である。

時間術系のハウツーでは、重要度が低いものを部下に任せて自分の時間を捻出するという考え方がメジャーだが人材育成においてはNGである。
重要度の高い仕事こそ部下を育てるので、そういう仕事こそどんどん部下に任せていくべきである。

とはいえ、任された部下にとっても現在のスキルよりも一段高い仕事を実行することは何かと失敗がつきまとうリスクがある。
そこで、重要度が高く緊急度が低い仕事を積極的に部下に任せよう。緊急性が低ければリカバリーする時間的な余裕はある。

一方で、重要度が低いが緊急度が高い仕事は、出世街道を外れたベテランにどんどん任せていこう。
年功序列が徐々に崩壊し、肩書の上では高い地位にいるものの組織図や体制図上では重要なポジションにいないベテラン社員がいるケースが少なくない。
出世街道は外れたものの若手よりはスキルがあり、それなりのアウトプットを期待できるベテラン社員にこそ、これまで部下に任せていたような重要度の低い仕事をどんどん任せて、重要度の高い仕事を部下に任せていくジョブアサインが効果的な育成機会を生む。

重要な仕事を部下に任せたら、大切なことは当事者意識を持たせることである。重要な仕事にアサインしてもアシスタントのように立ち位置では無意味である。
部下に裁量を大きく持たせた上で、上司がやるべきはリスク管理である。
報連相や状況の可視化をマネジメントし、小さな失敗を許容して部下を成長させつつも、最終的には仕事が成功裏に終わるようにリスク管理に徹する。

ところで、リスク管理に対する正しい認識を持つことが前提として重要である。
失敗が許される仕事は基本的にはないため、つい全案件のことが気になってしまう。
しかし、リスク管理はメリハリが重要であり、全案件に均等にリスク管理するよりも、リスクの高い案件に注力して低リスク案件は放置したほうが全体のリスクが極小化される状況ではないか冷静に見極める必要がある。

個々人の「らしさ:スタイル(特性)」を活かす

最終的な到達点は同じでも、個々人のらしさ(スタイル)を捉えた育成、マネジメントが重要である。
個人が持つ「らしさ」とギャップのある「こうあるべき」を押し付けようとすると成長するどころかパフォーマンスは低下してしまう。

例えば、以下のような2パターンの部下がいたとする。

①フットワークは軽くマルチタスクをこなせるが詰めが甘い部分がある
②動き出しは遅く、同時に複数の仕事をこなすことは苦手だが仕事の完成度は高い

異なる2タイプの部下がいたとして、しかし、どちらも最終的には7割仕事と10割仕事を見極めながらマルチタスクがこなせる人材に成長させたいとする。

①の部下の場合、育てるべきポイントは、10割仕事を見極めてそれについては時間をかけてきっちり詰める能力を伸ばさなければいけない。
一方で、②の部下の場合、何でも10割の完成度を目指すのではなく、7割仕事でもいい仕事を見極めて、メリハリをつけながらマルチタスクをこなす能力を伸ばさなければいけない。

このように、目指すゴールは同じでも、個々人のスタイルを把握して、育成ポイントを抑えなければ思ったように成長しない場合がある。
しかし、たくさんの部下がいれば、特定の部下の仕事をずっと観察して時間をかけて特性を見極めることは困難なので、効果的なのは本人と面談することだ。
部下の「らしさ」を探す質問として効果的なのが以下の設問である。

・大切にしていることは何か
・長所と思うことは何か
・短所と思うことは何か
・逆境に直面した時どんな本性が表れるか
・自分らしく行動できたのはどんなときか
・自分らしくない行動をしたのはどんなときか

採用面接のようであるが、上記の質問に(恥ずかしがらずに正直に)答えてもらえれば、部下個々人の特性がある程度見えてくる。